ここでは自励駆動法により推進する小型ボートをご紹介します. 自励駆動により発生するのは振動運動です. これを利用して水上を推進するような機構はできないかと考え, 以下のようなロール形の推進機構を考えました.
まず推進する原理を説明します. この機構は基本的にロール方向(図1の赤矢印の方向)にユラユラと振動します. 復原力を発生しているのは,船体下部に設置したおもり(図1中紫色で船体下についているもの,図2中では金色をしている)です. 船体はちょうど半分ぐらいまで水中に沈むよう前後のおもり (図1中紫で前後に円板状についている部分)を調整します. そして,船体底面からフィンを突き出します. このフィンは弾性体で,船体がロール振動すると流体力を受けてしなり, 結果的にバタ足のように流体を後ろにキックする効果を発生します. その推力により推進するわけです.
次に肝心のロール振動をどうやって自励的に発生させるのか, という点ですが, これには「自励フィードバック」と呼ばれる方法を用います. 図1中の茶色のポテンショメータの先におもりをぶら下げ, これを本体の絶対傾き角を計測する簡易角度センサとして用います. そしてこの本体の絶対傾き角度に比例するような電流がモータに流れるような 電気回路を組んでやります. そうすると,最初少しロール振動を手で起こしてやると, そのロール振動によってモータに電流が流れ,モータがイナーシャ(回転形おもり)を回転させ, またイナーシャはばねを通じて本体側に接続されているのでイナーシャがロール 振動します.そのイナーシャの反作用によってまた本体がロール振動させられるという 循環となり,結果として自励振動が発生します. (このような自励振動のタイプを非対称剛性行列形の自励振動と呼ぶのですが, 詳細は文献を参照してください.) これだけだと自励振動がどんどん大きくなっていってしまうので, ストッパーとして角度センサに制限を設け, フィードバックする電流量が増えすぎないようにしています.
本機構は全長450mmで,推進速度は 0.3m/s ぐらいでした. ユーラユーラと推進していく様は,ちょっとユーモラスです.